なぜライブの音は「浴びる」のか|ライブの音の正体 第1回

人の形に四方八方から朱の矢印が向かう絵。連載「ライブの音の正体」第1回「なぜライブの音は『浴びる』のか」の題字 ブログ

連載「ライブの音の正体」第1回(全6回+番外)

ライブのあと、「音を浴びてきた」と言う人がいます。でも、イヤホンで聴いた曲を「浴びた」とは言いません。同じ音楽なのに、なぜライブだけ「浴びる」になるのか。この連載では全6回にわたって、ライブの音が全身に降り注ぐように感じられる理由を、ひとつずつ解き明かしていきます。

「浴びる」という言葉の不思議

私たちが「浴びる」ものを並べてみます。日光、シャワー、拍手、注目、視線。

こう並べると、共通点が見えてきます。

ひとつ目は、外からやってくること。自分から取りに行くものではなく、向こうから降り注いできます。

ふたつ目は、全身で受け取ること。シャワーは手のひらだけに当たるものではありません。頭から足先まで、体ごと包まれます。

三つ目は、自分では選べないこと。日なたに立てば日光は勝手に当たりますし、拍手を「この分だけ」と調整することもできません。

一方、「聴く」はどうでしょう。耳を傾け、音を選び、注意を向ける。「聴く」は耳を使った能動的な行為です。

図1 「聴く」と「浴びる」

図1 「聴く」は一方向から耳で受け取る。「浴びる」は四方八方から全身で受け取り、量も方向も自分では選べない。

音楽はふつう「聴く」ものです。それなのにライブの話になると、自然に「浴びる」という言葉が出てくる。考えて言葉を選んだのではなく、体がそう感じたから出てくるのだと思います。ライブの音は耳だけで受け取るものではなく、外から全身に、逃げ場なく降り注いでくる。私たちは、それを体で知っているのです。

同じ曲なのに、何が違うのか

こんな経験はありませんか。

イヤホンで何百回も聴いた曲。歌詞も、ギターソロも、間奏の長さも覚えている。それなのに、ライブで最初のキックが鳴った瞬間、「この曲って、こういう曲だったのか」と思わされる。知っているはずの曲が、まるで初めて聴く曲のように体に入ってくる。

不思議なのは、曲そのものは変わっていないことです。メロディーも歌詞もコード進行も同じ。アレンジが多少違ったとしても、「別の曲」になるほどではありません。

では、何が違ったのか。

違ったのは曲ではなく、私たちの受け取り方のほうではないか。耳で「聴いて」いた曲を、ライブでは全身で「浴びて」いたのではないか。この連載の出発点はそこです。

答えの見取り図:3つの理由

ライブの音が「浴びる」ものになる理由は、大きく3つに分けられます。

図2 3つの理由の見取り図

図2 3つの理由の重なり。音(物理)が体(身体)を外から包み、その全体を会場とお客様(場)がさらに包む。回の番号は詳しく扱う回。

ひとつ目は、物理的な理由です。ライブの音は、量も形も家で聴く音とはまったく違います。特に低音は、耳で聴くというより体で触れる音に近い。さらに音は前から届くだけでなく、壁や天井や床に跳ね返って、四方八方から押し寄せてきます。(第2回・第3回で詳しく)

ふたつ目は、身体的な理由です。生の音には、録音された音源にはない強弱の幅と、叩いた瞬間の鋭さがあります。それに体が勝手に反応して、気づけば揺れている。この仕組みには、耳の奥にある平衡感覚の器官まで関わっているかもしれません。(第4回・第5回で詳しく)

三つ目は、「場」の理由です。同じ音を、同じ瞬間に、たくさんの人と一緒に浴びている。しかも、その日その会場でしか鳴らない音を浴びている。この共有と一回性が、体験をさらに特別なものにします。(第6回で詳しく)

物理、身体、場。この3つが重なったとき、音は「聴く」ものから「浴びる」ものに変わります。

ひとつだけ、先に答えを

詳しくは次回から順に話していきますが、ひとつだけ先に数字を出しておきます。音の量です。

自宅でスピーカーやイヤホンで音楽を聴くとき、音の大きさはだいたい60〜70dB(デシベル)程度です。普通の会話と同じくらいです。一方、ライブハウスの客席では100dB前後に達することも珍しくありません。御茶ノ水パルトネールの客席で測った値も、90〜100dBでした。

「30しか違わないのか」と思うかもしれません。でもデシベルは、10増えるごとにエネルギーが10倍になる単位です。30の差は10倍×10倍×10倍で、エネルギーにして約1000倍になります。当会場の90〜100dBで言えば、自宅の100〜1000倍です。

図3 デシベルとエネルギー

図3 デシベルは10増えるごとにエネルギーが10倍になる。自宅(約70dB)とライブハウス(約100dB)の30dBの差は、マス目にすると1個と1000個の差。

100倍、1000倍の音のエネルギーは、もう耳の穴だけでは受け止めきれません。あふれた振動は、皮膚にも、胸にも、骨にも届きます。私たちがライブで音を「浴びる」とき、体のあちこちが耳の代わりに音を受け取っているのです。

御茶ノ水パルトネールでも、お客様から「迫力あるね!」「いい音だね!」と言っていただくことがあります。その「迫力」は、耳だけでなく体で受け取った音の感想なのかもしれません。

次のライブで、確かめてみてください

最後に、ひとつ宿題を出させてください。

次にライブに行ったら、どこかの曲で目を閉じて、30秒だけ体に意識を向けてみてください。音は耳から入ってきていますか。それとも、胸やお腹や足の裏から入ってきていますか。

図4 30秒チェック

図4 30秒チェック。目を閉じて、音を感じた場所に印をつける。胸で感じた人は、次回の話が体でわかるはず。

きっと、耳以外のどこかが鳴っているはずです。

次回は、その正体のひとつである低音の話です。なぜ低音は胸で聴こえるのか。なぜ低音は「聴く」より「触る」に近いのか。

次回 第2回「低音は『触る』音 ― 胸で聴こえる理由」

連載「ライブの音の正体」の予定

  1. なぜライブの音は「浴びる」のか(今回)
  2. 低音は「触る」音
  3. 音に包まれる仕組み
  4. 生音と配信音源はどう違う?
  5. なぜ体が揺れてしまうのか
  6. みんなで聴くと何が変わるか

番外 耳を守りながら浴びる

主な出典

公演スケジュール

今後のライブは「今後のライブスケジュール(イベント一覧)」でご覧いただけます。

当会場への出演をご検討の方へ

出演のご相談は「お問い合わせフォーム」からお寄せください。出演が決まってから当日までの流れ(出演条件の確認を含みます)は「出演決定後に」にまとめています。

御茶ノ水パルトネールについて

御茶ノ水パルトネールは、東京・御茶ノ水の楽器の街にある小さなライブハウスです。日々さまざまなライブイベントを開催しています。ご不明な点は、お気軽にお問い合わせください。

タイトルとURLをコピーしました